神鳥の卵

第 34 話


「あー、ほんっとにこっちが防ごうとしなかったら全く気付かないのね」

カレンは双眼鏡をのぞき呆れたように言った。
その位置からだと建物の周辺に配置されたKMFや兵士達の姿がよく見えるのだ。
普通であれば、敵が見えた時点でカレンたちは対処する。
だが、それをルルーシュに止められてしまった。
つまり、敵にとってはたとえこちらに発見されていても「撤退を含む全ての作戦が成功する」状態を維持している。成否判定という推測は恐らく正しい。だって、彼らはこちらが気付いている事にさえ気づいていない。これが未来を直接見たりしているのであれば、カレンたちが見張っていることに気付き、これを罠だと考えるはず。でも、彼らは気づかない。作戦が成功するとわかっているから、警戒すらしていない。
進軍する兵とKMFの頭上の木の上に咲世子がいることさえ彼らは知らない。
知った上で行動しているなら、それなりの警戒をするはずだが、彼らは敵地にいるにもかかわらず一切警戒をしていない。油断しきっている敵を前にしているのに何も出来ないのはいらいらする。
相手の目的がスザクの写真だけならKMFは不要だ。当然、兵士も。これだけの用意をしている以上、本人を誘拐することが目的なのは火を見るより明らかで。

「でもさ、スザクを殺すことが目的の可能性はないわけ?」

どちらかといえば、その方が可能性が高いはずだ。
殺した後素顔をさらしてゼロがスザクだとやる方が効率もいい。
なにせ相手はスザクだ。捕まえるのも大変だが、捕まえた後も大変なのは間違いない。軍人だった時、軍にとらえられたりはしたが、逃げようと思わなかったから大人しく捕まった。でも、敵の手に落ちたなら話は別。全力で、人外の運動神経をフルに使い脱出するだろう。

『その可能性はないらしい。何せ相手は、枢木スザクのファンだ』
「その意味がよくわからないのよね」

C.C.の言葉にカレンは小さくうなった。
これだけの戦力を投下してスザク一人を誘拐するのが目的なんて理解が出来ない。敵が日本人ならまだわからなくはない。なにせスザクは日本最後の首相と言われた枢木ゲンブの嫡子だ。まだ日本がブリタニアの支配下にあった頃、スザクの生存が知られたエリア11では、彼を旗頭にブリタニアと戦うべきだという意見まで出たほど。日本を取り戻し平和になったとはいえ、いまの日本は昔とは違うと懐古主義を発揮して、昔の日本を取り戻すのだ!なんて考えを捨てきれない勢力がいてもおかしくはない。

『最強の騎士、最強のKMFパイロット。白兵戦においても右に出るもの無し。それが枢木スザクの評価だろう?』
「・・・まぁ、それはそうなんだけど」

淡々と言われた言葉に、くやしいがそうだと頷いた。
今は亡きナイトオブゼロ枢木スザクは最強の人間だった。
それがいまの世界の評価だ。
ダモクレスで勝ったのは紅蓮でランスロットじゃないのに。と、カレンは内心むかむかしているが、スザクがダモクレスで死を偽装する事がそもそも作戦に組み込まれていた時点で、スザクが死んだと誰もが思うような状況を作る必要があったということだ。紅蓮との戦いで作戦通り彼らは次へと進めた。・・・言い変えれば最初から紅蓮に負ける予定だった。スザクに勝てる戦力はカレンしかいない。カレンに勝ってしまえば死を偽装する作戦は失敗する。だけど簡単に負けてしまえば生死の確認をされかねない。だからギリギリの状況で、相討ちに。
もしそうだとすれば、スザクの技量はカレンをはるかに凌ぐ。スペックでは紅蓮が上だったが、パイロットとしてはスザクが間違いなく上なのだ。

『そんなことないよ。カレンとの戦いはほんとぎりぎりだったし』

スザクがあっさりと言った。ぎりぎり引分けにできただけだなのか、ギリギリ予定通りに進んだだけなのか。どちらにせよ、カレンは余計むっとした。

「今度模擬戦でもできないかしら?同じ機体で」

同じスペックで、どのぐらい差があるのか確かめてみたい。
黒の騎士団のエースパイロットは自分だという自負もあるが、いつも性能差のある機体で死闘を繰り広げていたから、同条件だとそれだけの差がでるのか純粋に気になる。

『えっと、それは無理じゃないかな?』
「それはどういう意味かしら?」

ゼロが模擬戦をするのが無理なのか、同じ性能の機体だとカレンと対等に戦うことが無理なのか。どっちとも取れる物言いに、カレンは思わず青筋を立てた。

『ふたりとも、じゃれあうのは後にしろ。敵が動いた』

作戦行動中だぞ。
C.C.の呆れたような声にスザクとカレンは我に返った。

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